特別講義 英米の国民国家構築とフランクリン・イメージの変容
東京外国語大学名誉教授 金井光太朗 さんをお迎えして、以下のような特別講義を開催いたします。大西洋を横断する政治と思想と表象をあつかう醍醐味を堪能できる講義です。みなさまのご来聴を歓迎いたします。
日時:2019年12月12日(木)14時40分から
場所:国際関係学部棟3314講義室
講義の概要
在米のイングリッシュとの意識を持っていたフランクリンがジェントルマンの地位を認められ、公益奉仕に務めイギリスに渡って活躍します。本人も文明世界での生活交流を楽しんでいましたが、その頃イギリスは連合王国の国民構築で大ブリテンの一体性構築を推進しアメリカを外化してゆきました。それはアメリカにいるイギリス系に反発を呼ぶとともに自分たちの伝統的な権利確認を敏感に意識させていました。英米の抗争が深まる中でフランクリンは極力帝国の融和に努力しますが結局戦争の直前になって融和を諦めざるを得なくなって帰国します。帰国後は独立を断固として主張しフランスの支援を求める使節としてパリに派遣されます。パリでフランクリンの人気は高く、本人もそれをうまく利用して外交活動で大きな成果を得ます。そのためにはアンシャン・レジーム批判で盛り上がるサロンでの活動が大事で、荒野から来た哲人としてシンプルで個人の活躍する自由なアメリカを体現する存在を演じました。アメリカ国家像の構築をアメリカより前にフランスが行っていた面があります。建国期のアメリカ合衆国はむしろ共和主義の伝統を受け継ぎ無私の公人ワシントンが代表的人物であり、フランクリンはその活躍にもかかわらず本国では低い評価のままで不遇の内になくなります。死後の哀悼もフランスで啓蒙のリーダー役を自負して啓蒙世界の偉人追悼を先頭に立って表明します。アメリカでは忘れられてゆきます。しかし、19世紀になりアメリカ社会が資本主義的な発展を展開し、それが国家像となるにつれてビジネスマンの典型としてフランクリンが思い出され、自伝がやっとアメリカでも出版され人気を博してゆきます。
金井光太朗(かない こうたろう)氏の略歴
東京大学法学部卒業、アメリカ合衆国ブラウン大学大学院歴史学研究科博士課程単位取得退学
東京大学社会科学研究所助手(1981-4)、南山大学外国語学部講師・助教授(1984-97)、東京外国語大学外国語学部教授(1997-2018)をへて、現在は東京外国語大学名誉教授。
主要著作:『アメリカにおける公共性・革命・国家——タウン・ミーティングと人民主権との間——』(木鐸社、1996年)、『アメリカの愛国心とアイデンティティ——自由の国の記憶・ジェンダー・人種——』(彩流社、2009年)など。